結論:最初の1つは「効果が大きそうな業務」ではなく「測れる業務」から選ぶ
- 複数の業務が候補に挙がると、多くの企業は「どれが一番効果が大きいか」を先に決めようとして、着手が後回しになります。
- IPA(独立行政法人情報処理推進機構)「DX動向2026」(2026年7月30日公表、回収数1,799社、調査期間2026年4月17日〜6月12日)によると、AI導入企業の91.6%が「業務が効率化・迅速化した」と回答した一方、「売上や利益が向上した」と回答した企業は3.9%にとどまりました(出典:IPA「DX動向2026」、確認日2026年10月29日)。効果を確認しやすいのは価値創出ではなく効率化の領域であり、最初の対象業務もその領域から選ぶのが実務的です。
- 本記事では、複数の候補業務から最初の1つを選ぶための4つの基準(頻度・定型度、影響範囲、測定可能性、専任体制)を整理し、選んだ後の進め方まで解説します。
「一番効果がありそうな業務」から選ぶと止まる
AI導入の検討では、経理・人事・営業・カスタマー対応など複数の業務が候補に挙がります。多くの企業がつまずくのは、データがないまま「どれが一番効果が大きいか」を先に決めようとすることです。効果の大きさは実際に動かしてみなければ分からず、机上の優先順位づけは議論が堂々巡りになりがちです。
IPA「DX動向2026」では、AI導入企業のうち「期待以上」または「期待どおり」の効果を得られたと回答した企業は合計31.8%でした(出典:同上)。残りの企業は、着手前の期待と実際の効果がずれています。優先順位づけの基準は「効果の見込み」ではなく、「着手しやすく、結果を測りやすいか」に置くほうが現実的です。
IPAのデータが示す実態 — 効率化は進むが、価値創出は止まる
同調査では、AI導入率は企業全体で42.3%、従業員1,001人以上の企業では78.3%に達する一方、100人以下の企業では16.6%にとどまっています(出典:同上)。導入後に得られている効果の内訳も偏っています。「業務が効率化・迅速化した」が91.6%なのに対し、「売上や利益が向上した」は3.9%、「新たな製品やサービスの開発・提供につながった」は7.4%です(出典:同上)。
この差が生まれるのは、多くの企業が「効率化できる業務」から着手しているためと考えられます。効率化は入出力パターンが決まっていれば効果が出やすく、測定もしやすい領域です。売上や利益の向上は市場や顧客の反応にも左右されるため、1つの業務改善だけでは動きにくい領域です。最初の対象業務は、まず効率化で効果を確認できる業務から選ぶのが堅実です。
最初に着手する業務を選ぶ4つの基準
候補業務を比べるときは、次の4つの基準で一つずつ確認してください。
| 確認する質問 | 着手に向いている | 後回しにしてよい |
|---|---|---|
| ① 頻度とデータ量:日常的に発生し、処理件数がまとまっているか | 向いている | 発生が年数回程度なら後回し |
| ② 手順の定型度:入出力のパターンが決まっているか | 向いている | 担当者によって判断が分かれるなら、標準化を先に行う |
| ③ 影響範囲:誤りがあっても社内で気づいて直せるか | 向いている | 顧客や取引先に直接影響するなら慎重に扱う |
| ④ 測定可能性:着手前に「何をどう測るか」を決められるか | 向いている | 測る指標が作れないなら、先に指標を整備する |
①は実績がすぐ積み上がり効果を数字で示しやすいこと、②は手順が定型化されていないままAIを乗せると担当者ごとに結果が変わり効果が測れないことを見ます。標準化を先に行う順番は標準化せずにAIを入れると失敗する——BPRとAI導入の正しい順番で解説しています。③は誤りが社内で気づいて直せる業務かどうか、④は処理件数・所要時間・エラー率など比較できる指標を着手前に決められるかどうかです。AIエージェントに任せてよい業務の線引きはAIエージェントに任せていい業務・任せてはいけない業務の線引きで整理しています。
図:頻度×定型度で優先順位を考える
実務では、①頻度とデータ量・②定型度の2軸でまず候補を絞り込み、残った候補を③影響範囲・④測定可能性で最終確認する、という2段階の進め方が現実的です。
専任体制を持てる企業は少ない
IPA「DX動向2026」では、AI導入済み企業の運用課題として「専門人材が不足している」が50.1%で最も高く、専任者を置いている企業は9.8%にとどまっています(出典:同上)。多くの会社は、既存の担当者が本来の業務と兼任でAI活用を進めることになります。兼任で進める以上、最初に選ぶ業務は1つに絞り、4つの基準をすべて満たす業務から着手するほうが、途中で止まらずに進められます。
選んだあとにやること — 小さく試して、測って、広げる
業務を1つ選んだら、次の3段階で進めます。
- 試行の範囲を区切る:対象業務の全件ではなく、一部の期間・一部の担当者からAI活用を試します。
- 選んだ指標で効果を測る:事前に決めた「処理件数」「所要時間」「エラー率」などの指標で、試行前後を比較します。
- 効果が確認できた範囲で広げる:数字で効果が確認できた段階で、対象を広げるか次の業務に移るかを判断します。
複数の候補業務に優先順位をつけ、着手する順番を決めてプロジェクトとして進める力は、AIの知識よりもプロジェクトマネジメントの基本に近い技術です。この優先順位づけと進行管理を体系的に身につけたい場合は当社のPM研修をご検討ください。業務の見極めから試行設計、効果測定の仕組みづくりまでを一緒に進めたい場合は、AIエージェント導入のコンサルティングで、業務選定からご相談いただけます。
まとめ
- IPA「DX動向2026」では、AI導入企業の91.6%が業務効率化を実感した一方、売上・利益向上を実感した企業は3.9%にとどまりました。最初の対象業務は、効果を確認しやすい効率化の領域から選ぶのが堅実です。
- 最初に着手する業務は、①頻度とデータ量②手順の定型度③影響範囲④測定可能性の4つの基準で選び、まず①②で絞り込み、③④で最終確認する2段階の進め方が現実的です。
- AI導入済み企業でも専任者を置けているのは9.8%にとどまるため、多くの会社は兼任で進めることになります。候補は1つに絞り、小さく試して、決めた指標で測り、効果が確認できた範囲で広げてください。
どの業務から着手すべきか自社の候補で整理したい場合は、下記からお気軽にご相談ください。
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出典一覧(確認日:2026年10月29日)
- IPA(独立行政法人情報処理推進機構)プレス発表「国内企業のDX動向・AI活用動向のポイントを公表」(2026年7月16日発表):https://www.ipa.go.jp/pressrelease/2026/press20260716.html — 調査の実施期間(2026年4月17日〜6月12日)・回収数(1,799社)を確認
- IPA「DX動向2026」掲載ページ:https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/dx-trend-2026.html — 報告書本体・データ集の公開(2026年7月30日)を確認
- IPA「DX動向2026」報告書本体:https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/rcu1hd0000017uk8-att/dx-trend-2026.pdf — AI導入率(全体42.3%・従業員1,001人以上78.3%・100人以下16.6%)、AI導入効果(業務効率化・迅速化91.6%/売上・利益向上3.9%/新製品・サービス開発7.4%/期待以上・期待どおりの効果31.8%)、運用課題(専門人材不足50.1%/専任者設置9.8%)の各数値を確認
